公開日:2023.02.28
更新日:2023.02.28
強化プラスチックってどんなもの?
「強化プラスチック」とは、プラスチックにガラスや炭素の繊維を加えて、がんじょうにした素材のこと。
FRP(エフ・アール・ピー:Fiber Reinforced Plasticsの頭文字を取った言葉)とも呼ばれます。
強化プラスチックの良いところや、どんな使い道があるのか、そしてどんなふうにリサイクルするのかを、一緒に見ていきましょう。
「強化プラスチック」とは?
軽くて、錆びたり腐ったりせず、形をつくりやすいのがプラスチックの長所。
けれどもふつうのプラスチックは、かたいものにぶつけたり、強い力で押したり引っぱったり、熱いものにふれたりすると、こわれたり変形したりしてしまいます。
この弱点を補うために、プラスチック以外の材料を加えることで、ふつうのプラスチックよりもがんじょうになるように工夫したのが「強化プラスチック」です。
2つの材料の良いところを合わせる
ものを作る材料には、木、鉄や銅などの金属、プラスチックなど、さまざまな素材があります。
素材は、それぞれちがった性質をもっています。
たとえば、木は軽いけれど燃えやすい。鉄は重くてがんじょうだけれど、ちゃんと手入れをしないと錆びてしまいます。
2つの材料を組み合わせ、両方のいいところをもっている材料として作り出されたのが「複合材料」と呼ばれる素材で、強化プラスチックもそのひとつです。
ガラスの繊維とプラスチックを合わせる
では、強化プラスチックは、プラスチックとどんな材料を組み合わせて作られるのでしょうか。
いちばんよく使われるのがガラスの繊維、つまり、ガラスを布のような状態にした材料です。
ガラス窓やガラスのコップはかたいものとぶつかるとこわれてしまいますが、ガラスを糸のようにして、布のように織ればこわれやすさはなくなります。
それをプラスチックと組み合わせれば、プラスチックのように軽く、そしてガラスのように形が変わりにくい、新しい材料ができるというわけです。
ガラスの繊維を使った強化プラスチックは、安い値段で作ることができ、軽くてがんじょうなので金属のかわりによく使われます。
炭素の繊維とプラスチックを合わせる
もうひとつ、最近増えてきたのが、炭素の繊維を使った強化プラスチックです。
炭素というのは、石炭やダイヤモンド、えんぴつのしんなどの中に多くふくまれる物質です。
炭素繊維のおもな作り方は、まず、ナフサが原料のプロピレンから作られるアクリロニトリルを重合してポリアクリロニトリルを作ります。
これを、溶剤に溶かしてからアクリル繊維を作り、このアクリル繊維を高温で加工して炭素繊維ができあがります。
炭素繊維を加えて作った強化プラスチックは、ガラス繊維の強化プラスチックよりももっと軽くて、がんじょうです。
しかし、炭素繊維はガラス繊維よりもとても値段が高いので、ガラス繊維を使った強化プラスチックに比べて炭素繊維を使った強化プラスチックが使われている量は少ないです。
使い道に合わせて特徴を自由に設計できる
プラスチックにはたくさんの種類があります。
同じプラスチックの仲間でも、燃えやすいもの、燃えにくいもの、あたためるとやわらかくなるもの、かたくなるもの、性質はさまざまです。
そのプラスチックに、ガラス繊維や炭素繊維などの別の材料を組み合わせれば、考えている使い道にぴったりの性質をもった材料を作り出すことができるのです。
たとえば、もともと電気を通しにくいプラスチックに、同じく電気を通さないガラス繊維を組み合わせれば電気を通さない強化プラスチックが作れますし、電気をよく通す炭素繊維を組み合わせれば電気を通す強化プラスチックを作ることができます。
強化プラスチックの使い道
自動車や船のボディ・部品
強化プラスチックは乗り物のボディ・部品にも使われています。
●変形しない、衝撃や引っ張りに強い
人を乗せて動く自動車や船は、がんじょうであることが何よりも大切。
たとえば自動車が急ブレーキをかけたり、船が荒波の中を進んで行ったりする時のことを考えると、衝撃や引っ張る力に対しての強さが必要になります。
●水に強い、腐らない、錆びない
船は長い間水につかっている乗り物ですし、自動車はずっと太陽の光の中にさらされ続けます。
強化プラスチックはそういった環境でもボロボロになりにくい素材です。
●軽い
強化プラスチックは鉄などに比べてとても軽い素材です。
軽いということは、動かすために必要な燃料が少なくてすむということ。
乗り物のボディに使えば省エネルギーになります。
競技用車いす、テニスラケット、ヘルメット
スポーツ用品の材料に求められるのは、軽いこと、そしてじょうぶであること。
そして、はねかえす力や衝撃を受けとめる機能を自由に設計できること。
思い通りに性質を設計できる強化プラスチックは、スポーツ用品にぴったりです。
●オーダーメイドから大量生産までに対応
スポーツ選手のためのオーダーメイド品から、何万個もの製品を工場で一度に作る大量生産品、どちらにも対応できます。
産業用タンク
産業用タンクには、これまでステンレスなどの金属が多く使われていましたが、最近は強化プラスチックのタンクが増えてきました。
●薬品に強い
化学的な影響を受けにくいので、薬品などを入れても穴があいたり変質したりすることがありません。
●形を作りやすい
金属に比べて形を作りやすく、複雑な形を作ることもできるので、これまで2つに分けて作っていた部品を1度で作ることができ、時間やお金の節約になります。
強化プラスチックは、タンクだけでなく工場のさまざまな設備を作るのに適しています。
お風呂の浴槽
ヒノキの木や、タイル、大理石、ステンレスなど、さまざまな材料のお風呂がありますが、今、日本で新しく作られる浴槽の多くは強化プラスチック製です。
●水に強い
浴槽をいくつかの部品に分けず一度にまるごと作れるので、水もれの心配がありません。
●お湯が冷めにくい
熱を逃しにくいので、浴槽の中のお湯が冷めにくくなります。
●肌にふれた時に冷たさを感じにくい
さわった時に冷たさを感じにくい素材なので、快適なお風呂を作ることができます。
●デザインしやすい
形を作りやすいので、丸みを持った形など浴槽を自由にデザインすることができます。
●汚れが付きにくく、掃除がしやすい
表面をなめらかに整えることができるので、汚れが付きにくくお手入れが簡単です。
●工場で作ってその場で組み立てられる
木のお風呂やタイルのお風呂は、大工さんや職人さんが家まで来てその場で作るので、工事に長い時間がかかります。
強化プラスチックのお風呂は、浴槽を工場で作って、家では組み立てるだけですむので、短い時間で工事が終わります。
風力発電のプロペラ
大きな建造物にもプラスチック製のものが多くあります。
風力発電のプロペラ(ブレード)もそのひとつです。
●衝撃や引っ張りに強い
風力発電の設備は、一度作られたらふつうは十数年の間そのままです。
台風で何かが飛んできてぶつかっても、強い風にあおられても、びくともしないほどがんじょうでなければいけません。
強化プラスチックの弱点
強化プラスチックの多くは燃えやすい性質をもっています。
その弱点を解消するため、プラスチックの中でも燃えにくい性質をもつ「フェノール樹脂」を材料として使うことで、なかなか燃えない強化プラスチックを作る研究が進められています。
フェノール樹脂は、熱を加えるとかたくなるプラスチックです。(このようなプラスチックを熱硬化性プラスチックといいます)
熱に強い性質を生かして、単体でも、なべの取っ手などに使われています。
フェノール樹脂を活用して今よりも燃えにくい強化プラスチックを作ることができたら、強化プラスチックの使い道はさらに広がっていくでしょう。
強化プラスチックのリサイクル
強化プラスチックは、がんじょうで、錆びたり腐ったりしません。
そのため、製品としての寿命をむかえた後の処分が難しいと言われ、ほとんどが埋め立てられていました。
しかし、今から20年ほど前にセメントを作る時の燃料・原料として再利用する方法ができ、リサイクルがスムーズにできるようになりました。
セメント原燃化
強化プラスチックのリサイクルで多く行われているのが「セメント原燃化」です。
セメントは、通常、おもな原料である石灰石と、細かくくだいた粘土、珪石、酸化鉄などをまぜたものを、大きなかまで焼いて作られます。
この時、細かくくだいた強化プラスチックを、粘土のかわりにかまの中に一緒に入れ、燃料・原料として再利用するのです。
強化プラスチックの中のガラス繊維は、成分がセメントとよく似ているので、そのまま原料の一部になります。
一方、プラスチックはそのまま燃料として燃えてしまいます。
この方法なら、強化プラスチックを繊維とプラスチックに分別する必要がありません。
使わなくなった強化プラスチックをゴミとして捨てずに再利用できますし、その分、天然資源である粘土を節約してセメントを作れるので一石二鳥です。
炭素繊維を使った強化プラスチックの場合、値段の高い炭素繊維を取り出してリサイクルすることもあります。
まとめ
今回は、プラスチックと別の材料を組み合わせて作る「強化プラスチック」について考えました。
性質を自由に設計できる強化プラスチックには、たくさんの可能性がつまっています。
みなさんは、これからどんなものをプラスチックで作ってみたいですか?
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