公開日:2023.03.24
更新日:2023.03.24
カーボンニュートラルとプラスチック
この数十年で、人間が排出する二酸化炭素などの温室効果ガスの量は、急激に増えました。
それは、地球の気候すら大きく変えようとしています。
すぐに対策を立てないといけない問題ですが、人間が生きていく上で排出量をゼロにすることは難しい。
そんな中で「これから排出する量をおさえると同時に、今すでに地球上にある温室効果ガスの量を減らしていけば、計算上の排出量をゼロにできるんじゃないか」という考え方が生まれました。
それが「カーボンニュートラル」です。
「カーボンニュートラル」とは?
「カーボンニュートラル」とは、温室効果ガスを排出した量と同じ分だけ吸収したり取り除いたりして、実質「温室効果ガスが出なかった」ことにする考え方です。
なぜ今、カーボンニュートラルに取り組む必要があるのでしょうか。
温室効果とは
地球の外側をおおっている大気には、もともと、二酸化炭素などの温室効果ガスが含まれています。
それらには、太陽が温めた熱を、ちょうどふたをするように地球のまわりに閉じ込める働きがあります。
これが「温室効果」で、温室効果自体は悪いものではありません。
温室効果がなかった場合、地球の表面温度は氷点下19℃ほどになってしまいます。
現在の世界の平均気温はおよそ14℃ですから、私たちがこごえることなく暮らせるのはこの温室効果のおかげでもあるのです。
狂い始めた温室効果ガスのバランス
自然の状態の温室効果ガスは、ちょうどいいバランスに保たれています。
動物が呼吸によって吐き出した二酸化炭素は、植物によって吸収されて、太陽の光から養分を作る光合成の材料になります。
温室効果ガスとその中に含まれている炭素は、そういった植物や動物の活動によって、地球の上をぐるぐるめぐっているのです。
しかし、産業の発展によって人間が石油や石炭を大量に使うようになり、そのバランスが崩れて、二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスはこの25年のうちに50%も増えてしまいました。
地球の気温が上がり北極・南極や高山の氷が溶けて、海の面積はどんどん広がっています。
1901年から2010年までの109年で、海面が19cm上がったという調査結果もあります。
また、気温が上がると、植物の育ち方も変わります。
気温が1℃上がるごとに、小麦などの穀物を収穫できる量は約5%ずつ減っていきます。
私たちの食べ物は、これからどうなってしまうのでしょうか。
「脱炭素社会」を実現するには
地球温暖化を食い止めるために、世界の国々はさまざまなやり方で温室効果ガスの排出を少なくしようとしてきました。
使うエネルギーを減らしたり、これまで石油や石炭を燃やして作っていたエネルギーを太陽光や風力などの再生可能エネルギー(温室効果ガスを排出せず、ずっと使っていけるエネルギー)に変えたりと、さまざまな取り組みが行われています。
しかし、私たち人間がごはんを食べ、仕事をして、社会を動かしていくと、どうしてもある程度の温室効果ガスは出てしまいます。
そこで登場したのが「温室効果ガスを排出した分だけ、吸収したり取り除いたりすることでバランスをとる」という「カーボンニュートラル」の考え方です。
世界と日本が掲げる目標
2021年1月20日時点で「2050年までのカーボンニュートラル実現を目指す」と明らかにしているのは、日本を含む124カ国と1地域です。
それは、気候変動の問題を解決するために2015年に「パリ協定」として採択された、世界共通の目標
「世界的な平均気温上昇を工業化以前に比べて2℃より十分低く保つとともに、1.5℃に抑える努力を追求すること(2℃目標)」
「今世紀後半に温室効果ガスの人為的な発生源による排出量と吸収源による除去量との間の均衡を達成すること」
に沿った取り組みでもあります。
温暖化対策を経済回復のチャンスに
2020年10月、日本政府は「2050年カーボンニュートラル宣言」を行いました。
その中で菅総理大臣(当時)は、「社会は温室効果ガスを出さない方向に変わっていき、それにともなってたくさんの仕組みが必要になる。この変化を、面倒な決まりが増えたと考えるのではなく、経済を元気にするためのチャンスととらえるべきだ」という意味のメッセージを発信しています。
発想を転換して、温暖化対策を経済回復のチャンスにするという方針を打ち出したのです。
二酸化炭素を吸収・除去する取り組み
それでは、今すでにある温室効果ガスを減らす取り組みには、どんなものがあるのでしょうか。
温室効果ガスの中でも、一番わかりやすい二酸化炭素に話をしぼって見てみましょう。
植林
一番単純なのは、木をたくさん植えることです。
産業の発展で二酸化炭素が増えた理由の一つは人間が石油や石炭を大量に使うようになったからですが、もう一つの理由として、土地開発や木材利用のために、木をたくさん切って森林の面積を減らしてしまったこともあげられます。
光合成によって二酸化炭素を吸収してくれる木の数を増やせば、その働きで二酸化炭素を減らすこともできるのです。
BECCSとDACCS
今、研究が進んでいるのが、木のくずなどを使ったバイオエネルギー発電と組み合わせ、発電の時に燃やして発生する二酸化炭素を取り出して土の中に埋めてしまうBECCS(ベックス・Bioenergy With Carbon Capture And Storage)や、大気中の二酸化炭素を直接回収して土の中に埋めるDACCS(ダックス・Direct Air Carbon Capture And Storage)です。
炭素を埋める場所をどうするかを考えなければいけませんが、植林よりも炭素を取り除く量をコントロールしやすいため期待されています。
大気中の二酸化炭素を取り除く技術は、ほかにもたくさんの方法が研究されています。
それらは「ネガティブエミッション技術」と呼ばれています。
プラスチック業界における二酸化炭素吸収・除去の取り組み
日本で1年間に排出される二酸化炭素の約6%は、プラスチックなどを製造する化学産業から出ています。
参考:資源(しげん)効果エネルギー庁(ちょう)効果ウェブサイト
プラスチック業界は、二酸化炭素の吸収・除去の取り組みを続けてきました。事例の一部を紹介します。
人工光合成
「人工光合成」とは、植物が二酸化炭素と水を原料に太陽の光を使って養分を生み出すのと同じように、二酸化炭素と水からプラスチックの原料を製造する技術です。
今研究されているのは、光によって化学反応を起こす「光触媒」を利用して水を水素と酸素に分解し、取り出した水素と工場などから排出された二酸化炭素を合わせて、ポリエチレンやポリプロピレンなどのモノマー(エチレンやプロピレンのことで、オレフィンともいう)を作る方法です。
二酸化炭素を減らしながら新しいプラスチックも作れる人工光合成は、まさに一石二鳥です。
バイオマスプラスチック
通常、原油から作られるプラスチックを、植物由来の材料(バイオマス)で作る。
それが「バイオマスプラスチック」です。
廃棄された後に焼却するとほかのプラスチックと同じように二酸化炭素を排出しますが、それは、原料の植物が大気中から取り込んだものなので差し引きゼロと考えます。
植物に吸収してもらった二酸化炭素を、製品の中に閉じ込めているようなものです。
ムダ使いしてすぐに廃棄せず、長い間大切に製品を利用すれば、その分、二酸化炭素もそこにとどまった状態が続きます。
また、バイオマスプラスチックの活用は、限りある資源である原油の使用量を減らし、そこからの二酸化炭素排出をおさえるためにも役立ちます。
まとめ
今回は、カーボンニュートラルの概要と、プラスチック業界の取り組みを紹介しました。
たくさんのことを知って、温室効果ガス排出につながりにくい行動を心がければ、私たちも地球温暖化防止のために役立つことができます。
例えば、燃やすごみをたくさん出す使い捨ての商品や余分な包装が多い商品を買わないようにすること。
見ていないテレビを消すこと。
お風呂をわかしたらすぐ入ること。
家族での外出は、できるだけ車よりも電車・バスを使うこと。
まずは、できることから始めてみませんか。
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