公開日:2023.02.24
更新日:2024.10.09
ポリ乳酸ってどんなプラスチック?やさしく解説!
私たちの暮らしを豊かにしてくれるプラスチック。私たちの回りには、数えきれないほどのプラスチック製品があります。
プラスチックは私たちの暮らしを豊かにしてくれる、たいへん便利な材料です。
その一方で、いま、世の中に出回っているプラスチック製品のほとんどは、限りある資源の石油が原料です。
また、製造や廃棄のときに二酸化炭素を排出したり、ごみになると半永久的に残ってしまったりすることなど、問題もあります。
そんなプラスチックの課題を改善するために開発されているのが、バイオプラスチックという新しいプラスチックです。
今回は、バイオプラスチックの一つであるポリ乳酸にスポットライトを当て、その特徴や、どんな製品に使われているのかを説明します。
この記事を読んで、ポリ乳酸への理解を深めてください!
ポリ乳酸ってどんなプラスチック?
ポリ乳酸は、今までのプラスチックとは違う「バイオプラスチック」とよばれるプラスチックの一つです。
ポリ乳酸の説明をする前に、まずは、バイオプラスチックについて簡単に説明しましょう。
バイオプラスチックとは
プラスチックのほとんどは、石油を精製して得られる「ナフサ」という液体を原料にしています。
石油からできたプラスチックは、限りある資源の石油が原料になっていることや、製造や廃棄などのときに二酸化炭素を排出する、自然には分解されないのでごみが増えるなど、さまざまな問題がありました。
バイオプラスチックは、そういった今までのプラスチック問題を解決するために生まれた、新しいプラスチックなのです。
バイオプラスチックの種類
バイオプラスチックには、「生分解性プラスチック」と「バイオマスプラスチック」の、2つの種類があります。
バイオプラスチックの種類(1)生分解性プラスチック
生分解性プラスチックとは、温度などの条件がそろえば、微生物の力で少しずつ水と二酸化炭素に分解されるプラスチックです。石油からできたプラスチックのように、いつまでもごみとして残ることはありません。
生分解性プラスチックは、植物からできるものもあれば、石油からできるものもあります。
バイオプラスチックの種類(2)バイオマスプラスチック
バイオマスプラスチックは、石油からではなく、植物など生物由来の原料から作られるプラスチックです。
石油は限りある資源ですが、植物は何度も収穫できるので、なくなることはありません。また、植物は生長する中で光合成をするので、二酸化炭素を吸収し、酸素を生み出します。
ですから、トータルで考えれば二酸化炭素の排出量を少なくすることができます(こういった考え方を、カーボンニュートラルといいます)。
なおバイオマスプラスチックには、すべてがバイオマスプラスチックの「全面的バイオマス原料プラスチック」と、原料の一部がバイオマスプラスチックの「部分的バイオマス原料プラスチック」があります。
生分解性プラスチックでもバイオマスプラスチックでもあるポリ乳酸
生分解性プラスチックは、微生物の力で分解されるバイオプラスチックです。
バイオマスプラスチックは、植物など生物由来の原料から作られるバイオプラスチックです。
どちらか1つの条件を満たすバイオプラスチックもあれば、両方の条件を満たすバイオプラスチックもあります。
そしてポリ乳酸は、植物を原料にして作られ、微生物によって分解もされるので、両方の特徴をあわせもつバイオプラスチックといえます。
ポリ乳酸は、英語では「Polylactic acid」と書きます。そのため、「PLA」と略して表記されることもあります。
ポリ乳酸は1930年代から研究が進められてきましたが、当初は、製品を作ると数ヶ月で分解が進んでボロボロになるなど、むしろ製品材料としては使うことができないプラスチックでした。
研究が進み、実用化されたのはここ20年ほどのことです。
ポリ乳酸の分子式と構造式
ポリ乳酸の分子式は、「(C3H4O2)n」となります。そして構造式は、このように表されます。
ポリ乳酸の原料や作り方
ここでは、ポリ乳酸の原料や作り方について説明します。
ポリ乳酸の原料は植物
ポリ乳酸の原料は、サトウキビやトウモロコシ、トウキビなどの植物です。
どの植物も、たくさん収穫でき、もともと人が食べない部分を使うので、人の食べ物を奪うことがないという特徴があります。
例えばサトウキビが原料の場合は、しぼりかすなどから取り出される糖類(廃糖蜜)を使います。
ポリ乳酸の作り方
ポリ乳酸は、以下のような作り方で作ることができます。
(1)サトウキビやトウモロコシなどの植物をくだいて、でんぷんを取り出します。
(2)でんぷんを酵素で分解して、糖を取り出します。
(3)糖を乳酸菌で発酵させて、乳酸を作ります。
(4)乳酸を化学的な方法で長くつなげ(重合)、ポリ乳酸を作ります。
(5)ポリ乳酸を加工・成形すると、プラスチック製品ができあがります。
ポリ乳酸にはどんな特徴があるの?
ポリ乳酸は、バイオプラスチックです。今までのプラスチックにはない特徴をもっています。
ここでは、ポリ乳酸の特徴を、メリットと課題(デメリット)に分けて紹介します。
ポリ乳酸のメリット
ポリ乳酸のメリット(1)分解されて水と二酸化炭素になる
ポリ乳酸は、条件がそろうと、微生物によって水と二酸化炭素に分解されます。
そのため、包装袋やストローなど私たちの生活の中でたくさん消費される、使い捨てのプラスチック製品の代用品などに使われています。
ポリ乳酸のメリット(2)焼却しても熱量が低い
一般的なプラスチックは、焼却すると高い熱が発生するものが多いです。
それに対してポリ乳酸は、焼却しても熱量が低いので、燃やしても焼却炉の負担が少ないというメリットがあります。
ポリ乳酸でできた袋とポリエチレンの袋を比較すると、ポリ乳酸の袋よりも、ポリエチレンの袋の方が、焼却したときの熱量や二酸化炭素の発生量が2倍ほど多いとされています(※1)
ちなみにポリ乳酸を焼却すると熱量が低いのは、ポリ乳酸の化学構造によるものです。ですから、すべてのバイオプラスチックが、焼却すると熱量が低いわけではありません。
例えば、石油からできたポリエチレンの袋と、バイオマスでできたポリエチレンの袋でくらべると、燃やしたときの発熱量や二酸化炭素の発生量は同じです。
ポリ乳酸のメリット(3)原料に石油を使わない
ポリ乳酸はサトウキビやトウモロコシ、トウキビなどの植物を原料にして作られます。
これは、原料に石油を使わない「バイオマスプラスチック」に当たります。限りある資源の石油を使わないので、資源保護につながります。
また、前の段落で説明したカーボンニュートラルの考えにより、地球温暖化を防ぐことができます。
ポリ乳酸の課題(デメリット)
ポリ乳酸の課題(1)値段が高い
ポリ乳酸は普及していないので、石油から作る通常のプラスチックにくらべて、値段(コスト)が割高になりがちです。
ポリ乳酸の課題(2)「使い捨て」が前提になる
ポリ乳酸は、微生物によって水と二酸化炭素に分解されます。ふつうのプラスチック製品は、こわれにくく丈夫なものほど重宝されます。
しかしポリ乳酸はその正反対で、時間がたてば必ず壊れます。そのため「使い捨て」が前提になります。
ポリ乳酸の課題(3)環境によって分解時間のスピードが変わる
ポリ乳酸が水と二酸化炭素に分解されるスピードは、微生物の動きに左右されるので、一定にはなりません。
日本バイオプラスチック協会の実験(※1)では、土に埋めた生分解性プラスチックのボトルが、42日後には穴があいてぼろぼろになりました。
しかし、必ず同じくらいの分解時間になるわけではありません。
ポリ乳酸はどんな製品に使われている?
ポリ乳酸は、時間がたつと微生物によって水と二酸化炭素に分解されるということが大きな特徴です。その特徴をいかせる分野で使われます。
例えば農業用フィルムの場合、使い終わったらそのまま土の中に埋めておけば、水と二酸化炭素に分解されて土の成分となります。ごみとして廃棄する手間がかかりません。
同じように、生ごみ袋も、ごみと一緒に廃棄すればよく、プラスチックの袋を回収したり燃やしたりする必要もありません。
ストローやコップなどにもポリ乳酸を使うところが増えています。ポイ捨ては絶対にいけませんが、使い終わったストローやコップは軽くて小さいので、風に飛ばされたりして、自然環境の中に流れ出てしまいやすいのです。
普通のプラスチックなら分解されず、自然を汚してしまいます。しかしポリ乳酸でできたコップやストローなら、そんな心配もありません。
ポリ乳酸が使われているおもな製品
名前 | ポリ乳酸 |
---|---|
おもな製品 | ・農業用フィルム ・土木 資材 ・生ごみ袋(たい 肥 化・メタンガス 発酵 施設 など) ・食品 容器 ・ 包装袋 ・ストロー ・コップ など |
普及が期待されるポリ乳酸
ポリ乳酸をはじめとするバイオプラスチックは、まだまだ新しい技術で、課題もあります。
しかしバイオプラスチックは、石油の保護やプラスチックごみといった、環境問題を改善する可能性を持っています。
環境問題の解決は、私たちがこれからも地球で暮らしていくために必要なものです。
日本政府では2019年、「プラスチック資源循環戦略」を発表しました。
また、2021年には、持続可能なバイオプラスチックの導入を目指した「バイオプラスチック導入ロードマップ」を発表しました。
「プラスチック資源循環戦略」や「バイオプラスチック導入ロードマップ」では、資源を守ったり、プラスチックごみを減らしたりするために、社会や企業がどんな取り組みをするべきなのかを、しめしています。
こうした取り組みの中で、「環境にやさしい」といわれるバイオプラスチックが注目されてきました。
国内のプラスチックメーカーでは、30年ほど前から、バイオプラスチックの研究・開発に取り組んできました。
そして2021年に発表された「バイオプラスチック導入ロードマップ」では、プラスチックのメーカーや、プラスチック製品を使うお店などに向けて、バイオプラスチックについての理解を深めてもらい、導入をうながしています。
欧州バイオプラスチック協会(EUBP)によれば、2021年の世界のバイオプラスチック製造能力は242万トンとなっています。
一方、日本では、2019年度のバイオプラスチックの出荷量は、4万7千トンでした(※1)。
ポリ乳酸をはじめとするバイオプラスチックは、私たちの未来をつくるプラスチックです。私たちのまわりにも、バイオプラスチックが大きく広がっていくことが期待されます。
私たちも、環境問題についてより深く考え、ものを大切に使ったり、リサイクルをしたりして、一人ひとりが、環境のために何ができるのかを考えていきましょう。
(※1) 出典:European Bioplastics,nova-institute(2021)
(※2) 出典:日本バイオプラスチック協会
まとめ
今回は、新しいプラスチックであるポリ乳酸について学びました。
微生物によって水と二酸化炭素に分解されるポリ乳酸。ポリ袋やスプーンなどの食器に、少しずつ取り入れられ、私たちの周りにも製品が増えています。
私たちも、ポリ乳酸のプラスチック製品を目にしたら、積極的に使っていきましょう。
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