公開日:2023.02.28
更新日:2024.10.09
ABS樹脂は丈夫なプラスチック!どんな物に使われる?
ABS樹脂は、いろいろなことに使える性質を持つプラスチックで、暮らしに欠かせないさまざまな製品に利用されています。
他のプラスチックとの大きな違いは、表面に光沢があること。
そのため、容器の外側に使われることが多く、私たちも知らないうちに、どこかでABS樹脂の製品を見たり、触ったりしているのです。
あまり聞きなれないABS樹脂というプラスチックが、どんな特徴を持ち、どんな製品になっているのか、分かりやすく解説します。
ABS樹脂は、どんな物質から作られている?
ABS樹脂は、ポリスチレンというプラスチック素材の強度を高めるために、1940年代から1950年代にかけて開発されたプラスチックです。
そっくりな名前の「AS樹脂」というプラスチック素材がありますが、ABS樹脂はAS樹脂よりも衝撃に強く、A(アクリロニトリル)、B(ブタジエン)、S(スチレン)の特性をバランス良く備える素材として改良を加えられた物です。
ABS樹脂は、それぞれの頭文字であるA、B、Sを取って「ABS樹脂」と名付けられました。
ABS樹脂が最初に作られたころは、アクリロニトリルとブタジエンを一緒に化学的につなぎ合わせて(「重合」といいます)作った「NBR」と、アクリロニトリルとスチレンを一緒に重合して作った「AS樹脂」を混ぜる方法が使われていました。
今では、ブタジエンを重合して作った「BR」にアクリロニトリルとスチレンを重合して作る方法などがあります。
日本では1960年代から、工業製品の発展とともに生産量が増え、暮らしの中で使うさまざまな製品の原料として現在まで活用されてきました。
2023年には、約27万トンが生産されました。
3つの成分が持つ、それぞれの特性
3つの成分が持つ、それぞれの特性を見てみましょう。
ABSのAに当たるアクリロニトリルは無色透明の液体で、熱や衝撃に強いプラスチックを作るための原料として、さまざまな成分と組み合わせることができます。
ポリスチレンは、スチレンのモノマーを重合化して作られるプラスチックです。
1839年に発見されて1930年には実用化された、最も古いプラスチック製品の原料でもあります。
私たちの身の回りにあるたくさんのプラスチックの中でも、特に多く使用されている「4大汎用プラスチック」の1つで、カップ麺の容器などの食品包装材料や、工業用の部材など、さまざまなものに使われています。
アクリロニトリルとスチレンを一緒に重合すると、90〜100℃の高い熱に耐えられるAS樹脂となります。
酸やアルカリによる劣化を起こしにくい特性もあるので、食品容器や歯ブラシ、赤ちゃんのおしゃぶりなど、口の中に入れる物にも使われています。
このAS樹脂に、アクリロニトリルとブタジエンを一緒に重合して作ったNBRを加えることで、AS樹脂よりも耐衝撃性の高いABS樹脂が生まれました。
重合してできたNBRのうち、ブタジエン部分は、引っ張ったり押されたりした時に、元の形に戻ろうとする力が強いという特性があります。
ゴムの性質があるブタジエンの特性を加えたことで、AS樹脂のメリットを残したまま、さらに強い素材を作ることができたのですね。
ABS樹脂は、どんな強さを持つプラスチック?
プラスチックは日常で使う製品に多く利用されているので、使っているときに壊れたりすると、人がケガをして大変なことになりますね。
だから、何度も強い力がかかるようなものを作るには、丈夫な素材を使わなければなりません。
ABS樹脂は、衝撃に強い特性を持ちます。
比較的高い温度に強く、また、低い温度やほとんどの薬品にも強いことから、室内で使うものにも、屋外で使うものにも広く利用されています。
ABS樹脂のメリット
プラスチックには、熱を加えると溶けるタイプと、逆に固くなるタイプがあります。
熱を加えると溶けるタイプは「熱可塑性樹脂」と呼び、逆に固くなるタイプは「熱硬化性樹脂」と呼びます。
ABS樹脂は高温でチョコレートのようにやわらかくなる熱可塑性樹脂のタイプで、成形加工しやすい点がメリット。曲げたり、型に流し込んだりして複雑な形に整えることもできます。
加工した後は、衝撃や曲げ、引っ張りに対しての強度や、70〜100℃の熱や低温にも耐えられる強さを持つ素材となります。
加工をした後には表面に光沢が出るためそのままで製品の外装に利用できる美しさです。
さらに、印刷や塗装などの表面加工もしやすいことから、デザイン性を求められる製品にも多用されています。
ABS樹脂のデメリット
ABS樹脂の弱点は太陽光やUV(紫外線)で、長時間あたると劣化するデメリットがあります。
耐熱性は高いのですが、プラスチックはそもそも可燃性ですから、火をつけると燃えてしまいます。
また、アルコールに長時間ふれるとふくらむ性質があり、アルコールを含む液体の容器には適していません。
ABS樹脂はどんなものに使われる?
衝撃に対する強さと、高温にも低温にも耐えられる強さ、そしてツヤのある美しさを持つABS樹脂は、私たちの生活で欠かせない存在です。
家電製品のように、電気を流したまま長時間連続して使うものや、トランクのように中身を守らなければならないものなど、熱や衝撃のダメージから部品や人を守るものに多く使われています。
ABS樹脂はいろいろな種類がある
ABS樹脂は、3つの成分を合わせて作られていることを説明しましたね。
この成分の配合の量を変えたり、他のものを加えたりすることで、強度のちがう種類を作ることができます。どのようなものがあるのか、一部を見てみましょう。
・ガラス繊維を加えて、熱や強度を高めた「ガラス繊維強化ABS樹脂」
・耐熱性を高めた「αメチルスチレン系、フェニルマレイミド系」
ちょっとややこしい名前が出てきましたね。
「αメチルスチレン」とは、スチレンよりも耐熱性の高いαメチルスチレンをスチレンの代わりに用いることで、耐熱性の高いABS樹脂を作ることができるものです。
「フェニルマレイミド系」ABS樹脂とは、αメチルスチレン系よりもさらに高い熱に耐えられる性質が求められる時に用いる成分で、もとのABS樹脂が使えないような高温の環境でも使用できる素材を作ることができます。
他にも、寒さに耐える力を高めるために、ブタジエンを他の成分と入れ替える方法などがあります。
どんな製品に使われている?
皆さんは、おもちゃのブロックで遊んだことがありますか?あれもABS樹脂で作られている製品です。軽くてこわれにくく、使いやすいプラスチックであることがよくわかりますね。
表面のツヤも、少し遊んだくらいで消えることはなく、きれいな状態で長く遊ぶことができます。
おもちゃの他には、以下のようなものがABS樹脂で作られています。
・日用品…お盆やお椀など漆器の食器、ゲーム機本体、トランク、クリップボードや小物ケースなどの文具
・電気製品…エアコンの吹き出し口、冷蔵庫のインナーボックスやドアライナー、テレビフレーム、洗濯機パン、パソコン本体、デジタルカメラのケースや三脚など
・自動車…ハンドル、センターパネルやシフトレバーなどの内装や、フロントグリルなど外装の部品
・建築材…ドア、棚、パイプなど
・スポーツ用品…新体操用品やダイビングで使うシュノーケル部品など
・楽器用品・楽器ケース等…タンバリンの本体など楽器の一部、バイオリンケースなど楽器を持ち運ぶための収納ケースなど
上記の他、ヘルメットなど、命を守るために身体に装着するものに使われることもあります。
ABS樹脂は加工しやすい便利な素材
ABS樹脂は、小さなおもちゃから大きなものまで、さまざまなものの原料になっています。
こんなに幅広い製品を大量に作るためには、加工の手間が多い材料は使えません。
高温で溶ける性質を持つABS樹脂は、どんな形にも仕上げられる点が注目され、使用する用途が広がりました。
また、成形加工後は表面にツヤが出るため、ツヤ出しのためにかかる工程数を減らすことができ、コストの削減にもつながります。
特性の違う物質を重合することで、使う目的に合わせた強度を持たせることができるABS樹脂は、非常に加工しやすい点がメリットとなっています。
アメリカで工業製品として生産されるようになった後、多くの国で生産工場が建てられ、さまざまな製品に加工されているABS樹脂。
これから新たな技術に利用されていくことが期待されています。
3Dプリンターの材料として
3Dプリンターは、何層ものプリントを重ねて、立体の製品を作る機械です。
紙に印刷するインクのように、プリンターに設置した樹脂に熱を加えて溶かしたり光をあてて固めたりしながら、少しずつ積み重ねて立体を作ることができます。
その樹脂材料としてABS樹脂が注目されています。
ABS樹脂は熱を加えて溶かすことができて加工がしやすく、立体を形成しやすいことから、製品を完成させる前に作る試作品の材料として多く利用されています。
塗装や表面加工もしやすい
プラスチック素材は一般的に、塗装をしても剥がれやすい特性があります。水分や油が浸透しない性質を持っているため、油性と水性どちらの塗料もはじかれてしまいます。
そのため、通常は塗装する前に表面を削ったりして傷をつけ、塗料が密着する加工をしなければなりません。
ABS樹脂は表面にツヤが出る素材なので、塗装をしなくても外装として使えますが、塗装したい場合にはいくつかの注意が必要になります。
塗料に含まれている溶剤の種類によっては影響を受けることがあるため、ラッカーなどの溶液を塗ると、劣化して割れやすくなる弱点があるのです。
しかし金属のようなメッキ加工に対しては、ABS樹脂の持つ特性を生かすことができます。
ABS樹脂のメッキ加工は、3つの成分のうちのひとつ、ポリブタジエンだけを溶かす方法で行われます。
ポリブタジエンを溶かすと表面に小さな穴が開きます。
この穴は、下の画像のような、奥が広いかたちになっていて、アンカーフック(ものを引っかける役目をするもの)のように、塗った塗料が奥に入りこんで剥がれにくくなる効果を発揮します。
自動車の正面についている「フロントグリル」という格子状の部分などは、メッキ加工をしたABS樹脂で作られています。
まとめ ABS樹脂のこれから
ABS樹脂は世界で広く生産されているプラスチックの1つです。
ABS樹脂は成分を調整することで、耐熱性や耐薬品性、強靭性といった特徴を加えることができる便利な素材ですから、今後もさまざまな製品に加工されて、私たちの暮らしの中で活躍するはずです。
特に、3Dプリンターの素材としては、これからもっと広い分野で使われていくだろうと考えられています。
3Dプリンターは、販売する商品の試作品を作ったり、建物を建てるためにイメージを確認するための模型を作ったり、最近では、医療の分野でも医療用品の一部を作るなど、使われる用途が増えてきています。
家庭用の3Dプリンターも登場して、フィギュアなどのおもちゃを自宅で作れるようにもなりました。自宅で好きなおもちゃが作れたら、きっと楽しいことでしょう!
3Dプリンターで作ることができるものは、これから、もっと増えていきます。ABS樹脂は、3Dプリンターの活躍とともに、使われる機会も増えるだろうと期待されています。
重合の方法や、重合する素材などの研究は今も進められています。将来、もっと強くて扱いやすいABS樹脂が生まれてくるかもしれません。
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