公開日:2023.03.24
更新日:2023.03.24
エンジニアリングプラスチックは、どんな特性を持つプラスチック?
生活に必要な、たくさんのものに使われているプラスチック。その中でも、高い熱でも溶けにくく、強い力がかかっても簡単に壊れない強さを持っているのが「エンジニアリングプラスチック」(エンプラ)です。
日常生活で使われているプラスチックと、どんな点が違うのでしょうか。そして、どんなところで使われているのでしょうか?
エンジニアリングプラスチックはたくさんの種類があって、全てを紹介することはできませんが、主な5種類の特性と、その用途について紹介しましょう。
エンジニアリングプラスチック(エンプラ)って何?
エンジニアリングプラスチック(エンプラ)は、プラスチックの種類の一つです。
エンジニアリングとは、少し難しい説明になりますが、数学や化学、物理学といった学問を、工業の分野に応用すること。
エンジニアリングプラスチックは、その意味の通り、工業用に開発されたプラスチック樹脂をさしています。
一般的なプラスチックとの違い
エンジニアリングプラスチックと、食品容器などに使われている一般的なプラスチックとの大きな違いは、耐えられる熱の温度です。
プラスチックはその特性により、大きく2種類に分けられます。
一つは「熱可塑性樹脂」という種類で、高温を加えると溶けて、冷えると固まる特性があります。
もう一つは、「熱硬化性樹脂」という種類で、熱を加えると固まる特性を持っています。
エンジニアリングプラスチックは「熱可塑性樹脂」の中に含まれるプラスチックで、常に100℃以上の熱に耐えられることが目安とされています。
また、引っ張る力に対して40MPa以上の強さを持つこともエンプラの特性と言えます。
1MPaは、10.2kg/㎠(平方センチメートル)の力と同じで、1㎠当たり10.2kgですから、その40倍以上の1㎠当たり408kgの力がかかっても、簡単には壊れないほどの強さを持っているということになります。
上の図は、エンプラで作った、断面の辺がそれぞれ1cmの四角形の棒です。
40MPa以上の強さがあるということは、この棒に体重40kgの人が10人ぶら下がってもこわれないくらいの強さがあるということです。
エンプラの特徴と種類
エンジニアリングプラスチックは、100℃以上の高温に耐えられるとお話ししました。
なぜ、プラスチックなのに、そんなに高い熱に耐えられる特徴を持つようになったのでしょう?それは、私たちの生活が工業製品に頼るようになったためです。
世界中で、鉄や金属、繊維などの工業生産が活発になった1960年代から、日本でも住宅や車、衣類などが工業化されて、さまざまなものが工場で作られるようになりました。
大量に色々な種類のものを作るためには、「安く作れて、軽く、加工しやすい素材」が必要です。
金属は硬くて丈夫ですが、加工に手間や時間がかかることが多く、重たいことや水分の多い場所では錆びて丈夫さを失うことがデメリットでした。
そこで注目されたのがプラスチックです。そのうち、高温にも強く、強い力がかかってもこわれにくく、金属に近い丈夫さを持つプラスチックがエンジニアリングプラスチックです。
高熱に耐えられる特性を持ちながら、熱を加えると溶けて、自由な形を作ることができる点や、冷えて固まった後の強度がしっかりしている点、とても軽くて大量生産に向いている点などが、エンプラの全体的な特徴です。
エンプラは、目的に合わせて多くの種類が開発されました。その中から、主な5種類の特徴を見て行きましょう。
ポリカーボネート
常用耐熱温度:120℃〜+130℃
衝撃に強く、無色透明で透明度が高いことから、多くの製品に使用されています。
弱点は、アルカリなどの薬品に対する耐性が低いことです。
ポリアミド(ナイロン)特性
<ナイロン>
常用耐熱温度:80℃〜140℃
衝撃やすり減りに強く、薬品に対してもある程度の強さを持っています。乳白色をしていて、透明度は高くありません。
弱点は、酸に対して弱い、吸水性が高いこと。水を吸うとふくらんでしまうので、正確な寸法が求められる部品や部材には使えません。
アセタール樹脂(ポリアセタール)
常用耐熱温度:80℃〜120℃
すり減りに強い、優れた素材です。白色をして透明性がないことから、多くは着色して使われます。
弱点は、酸に弱いものも一部あることです。
ポリブチレンテレフタレート(PBT樹脂)
常用耐熱温度:60℃〜140℃
ポリブチレンテレフタレートは、衝撃に強く、電気を絶縁する性能に優れています。
加工がしやすい素材であり、ガラス繊維と混ぜて使うことが多いです透明性はなく、白色をしています。
ふっ素樹脂
常用耐熱温度:260℃
ふっ素樹脂は活用しやすい素材で、複数の種類が開発されました。
代表的なものは、ポリテトラフルオロエチレン(PTEE)で、高熱やすり減り、薬品に耐える力に優れ、非粘着性を持ちます。透明性はありません。
非粘着性というのは、くっつく特性を持つものに対して、くっつかないか、くっつきにくい性質のことです。
シールを貼ってもすぐに剥がれるものがありますね。そういうものに対して、「非粘着性が高い」と言います。
高熱に耐える力がとても高いためスーパーエンジニアリングプラスチックに分類されますが、強度面では、他のエンジニアプラスチックよりも低くなります。
エンジニアリングプラスチックは、40MPaの引っ張り力に耐えられる強さがあると説明しましたが、ふっ素樹脂の場合は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)という種類で30MPaほどです。
ポリテトラフルオロエチレンは、アメリカのケマーズ社が開発したコーティング材が、テフロンという商品名でフライパンに多く使われていることで知られています。
エンプラが使われているもの
強度や高熱への耐性に優れているエンジニアリングプラスチックは、生活用品の一部から、金属の代用品、半導体工業の分野などで広く使われています。
ほんの一部ですが、どんなものに使われているのかを見てみましょう。
ポリカーボネート
ポリカーボネートの特性を生かして作られている製品は、小さなものから住宅の建築材のような大きなものまでさまざまです。例えば以下のようなものがあります。
・記録用ディスク…CDやDVDのディスク
・電子部品ハウジング(携帯電話など)…電子部品を守るための絶縁部品(導線などを保護する外装など)
・自動車部品…ヘッドランプレンズ
・カメラ部品…カメラレンズ、ハウジング
・建築材…透明屋根材
ポリアミド(ナイロン)
ポリアミドは、ポリカーボネートと同じくらい多くの製品に使われているエンプラで、代表的なものにナイロン6とナイロン66があります。
ナイロンは1935年にアメリカの化学製品メーカーのデュポン社が開発して、ストッキングに用いる繊維として使われ、工業化されました。その後も改良が続けられ、今では衣類以外のものにも広く使用されています。
<ナイロンが使用されている製品>
・ファッション製品…ストッキング、ファスナー、バッグ
・自動車部品…吸気管、ラジエタータンク、冷却ファン
・食品用品…食品フィルム
・漁業・釣り用品…魚網、テグス
・工具…各種歯車
アセタール樹脂(ポリアセタール)
プラスチックの中で、すり減りに対して非常に高い耐性を持つとされているアセタール樹脂は、金属の代用として使われることが多い素材です。
・各種機械部品…歯車、ベアリング
・楽器…ギターのピック、リコーダー等の楽器の可動部品
・自動車部品…燃料ポンプ
・雑貨等…クリップ、各種ファスナー
ポリブチレンテレフタレート(PBT樹脂)
絶縁性に優れているポリブチレンテレフタレートは、電子部品や自動車部品に多く使われています。
・電気部品、OA機器部品…コネクタ(絶縁のための部品)、キーボードのキーキャップ、等
・自動車部品…排気バルブ、エアバッグの制御装置
スーパーエンプラと呼ばれるものもある
エンジニアリングプラスチックに、より強度を持たせた「スーパーエンジニアリングプラスチック」と呼ばれるものもあります。
スーパーエンジニアリングプラスチックは、エンプラと同じ熱可塑性樹脂ですが、エンプラよりも高温に強い特性を持ちます。
スーパーエンプラの特徴
スーパーエンジニアリングプラスチックの常用耐熱温度は150℃以上。高温の中で溶けることなく長時間使い続けることができるほどの強さを持ちます。
ガラス繊維などの補強繊維などと複合化(複数の素材を組み合わせること)して、衝撃に耐える力も強化されていることから、自動車や建築の部品、産業機器や食品機器、医療用機器など非常に広い範囲で使われています。
ふっ素樹脂
熱にも薬品にも強く、非粘着性を持つことから、食品関連から化学製品、半導体製品など社会の広い場所で使われているふっ素樹脂は、高熱に耐える力の高さからスーパーエンジニアリングプラスチックの部類に入ります。
・食品関連…フライパン内面コーティングなどの調理器具の一部
・絶縁材料…電線・ケーブルを包む被膜
・部品や配管の接続部品、その他部品…ガスケット、軸受、各種パッキン、フィルター
・半導体部品…パイプ、チューブ類、バルブ、ポンプ、保管・輸送コンテナ
エンプラのメリット
プラスチックの弱点をカバーする強さを持つエンジニアリングプラスチックのメリットは、熱や衝撃、すり減りや疲労に強いことです。
プラスチックの疲労とは、強い力や重さが何度も加わると、少しずつ影響を受けて素材の強度が弱くなっていく状態です。
バランスの良い強さを持つエンプラが次々と開発されたことで、産業や工業の発展そのものにも大きく貢献してきました。
半導体不足で自動車や家電などの製品が作れず、販売する商品が品切れになったりしている今、日本国内で半導体生産工場を増やす動きが高まっています。
新たな工場の建設が全国で進められる中、エンプラの需要が高まっていくことでしょう。
エンプラのデメリット
エンプラのデメリットは、価格が高いこと、金属に比べると強度や熱耐性が劣ることです。
すでにスーパーエンジニアリングプラスチックが登場していることで、一部のデメリットはカバーされつつありますが、価格はこれからの課題でもあります。
中には酸や紫外線、水に弱いものもあり、これらの弱点をカバーする素材の開発はこれからも進められていくことでしょう。
まとめ
エンジニアリングプラスチックは、プラスチックの弱点である熱への耐性の低さを克服し、工業製品にも使えるように開発されたプラスチックです。
100℃以上の高温に長時間耐えることができ、改良がしやすいことから、非常に多くの種類が開発されました。
高熱・衝撃・すり減りなどに耐える力のバランスが良く、製品化した時の安定性も高いことから、自動車部品、電子機器部品や半導体工場内などで、金属部品の代用として、また絶縁体としても多く用いられています。
社会のさまざま場所で、たくさんの種類のプラスチックが使われるため、プラスチックのリサイクルについて、細かな法律が作られました。
エンジニアリングプラスチックが使われている製品も、それぞれの法律に従ってリサイクルされます。
家庭で使ったプラスチックは一般廃棄物として、産業で出るプラスチックごみは産業廃棄物として、それぞれが責任をもって処理しなければなりません。
プラスチックごみは、3つの手法で処理されます。
1つ目は、プラスチックを熱で溶かして原料として再利用する「マテリアルリサイクル」。2つ目は、化学工場や製鉄所で原料として利用する「ケミカルリサイクル」。3つ目は、焼却して熱エネルギーを利用する「サーマルリサイクル」です。
私たちの生活を支えるために強く作られているエンプラも、リサイクルされることで、最後まで人々の暮らしに役立っているのです。
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