膨(ふく)らむ、縮(ちぢ)む、衝撃(しょうげき)に強い優(すぐ)れモノ　ポリスチレン

私達が日常(にちじょう)生活(せいかつ)でよく使うプラスチックの１つにポリスチレンがあります。冷蔵庫(れいぞうこ)を開(あ)けてみるとポリスチレンで作ったものがたくさんあります。お醤油(しょうゆ)など調味料(ちょうみりょう)や卵(たまご)が置(お)いてある透明(とうめい)の棚(たな)はポリスチレンで作られています。また冷蔵庫の内側(うちがわ)の壁(かべ)には衝撃に強いタイプのポリスチレンが使われています。冷蔵庫のなかにある食(た)べ物(もの)に目を移(うつ)すと、お刺身(さしみ)やお肉(にく)などの食品(しょくひん)トレーや、納豆(なっとう)の容器(ようき)（入(い)れ物）にもポリスチレンが使われています。これらの容器と、卵が置かれている棚(たな)、冷蔵庫の中の壁を比(くら)べると、それぞれ色合(いろあ)いや、肌触(はだざわ)りの違(ちが)いに気づきます。お刺身のトレーは白く柔(やわ)らかいですが、冷蔵庫の棚は透明で硬(かた)いです。それぞれの役割(やくわり)に応(おう)じて性質(せいしつ)が違っています。ポリスチレンはこのような性質の違いを出すために、膨らませたり、縮めたり、衝撃に強くするための加工(かこう)を加えられて、私達の身(み)の回(まわ)りで役(やく)に立っています。

ポリスチレンは世界で年間約1,100万トン以上使われています（2022年推計(すいけい)）。こうした大量(たいりょう)に使われているプラスチックを汎用(はんよう)プラスチックといいます。スーパーマーケットのレジで買うポリ袋(ぶくろ)から自動車(じどうしゃ)の部品(ぶひん)まで、色々(いろいろ)な用途(ようと)で使われるポリエチレンや、ポリプロピレンとともに、ポリスチレンは4大汎用(だいはんよう)プラスチックといわれています。日本でも年間約60万トンが使われています。作っている会社は３社あります。ポリスチレンは1935年に工業化(こうぎょうか)（工場(こうじょう)で一度にたくさん生産すること）され90年の歴史(れきし)があります。

ポリスチレンは加工(かこう)がしやすく、同じ形のものをたくさん作れるという特長(とくちょう)があり、電気(でんき)製品(せいひん)や雑貨(ざっか)、食品(しょくひん)容器(ようき)など幅広(はばひろ)く使われています。また発泡(はっぽう)させやすく、断熱材(だんねつざい)（熱(ねつ)を通(とお)しにくくする材料(ざいりょう)）として多くの発泡製品(せいひん)が使われています。食べ物を冷凍(れいとう)して運(はこ)ぶ白い箱(はこ)は発泡(はっぽう)ポリスチレン（発泡スチロール）という材料(ざいりょう)です。

またお惣菜(そうざい)が入(はい)った透明(とうめい)のケースやヨーグルトの容器にも、ポリスチレンで作られているものがあります。食品の容器だけではなく、プラスチックモデルの材料、テレビやエアコンの外側(そとがわ)（筐体(きょうたい)といいます）や中の部品にも使われます。

ポリスチレンは大きく分(わ)けると、いろいろなものに使われている硬(かた)い一般グレード（GPPS）と、ゴムの成分(せいぶん)を混(ま)ぜて()衝撃(しょうげき)に強くした耐(たい)衝撃性(しょうげきせい)ポリスチレン（HIPS）の2種類(しゅるい)があります。

電気(でんき)製品(せいひん)を買って、ダンボールを開(あ)けると、最初(さいしょ)に現(あらわ)れる白い箱(はこ)は、中の製品を守る緩衝材(かんしょうざい)です。この緩衝材に使われるのが発泡スチロールです。英語の略語(りゃくご)でEPS（=Expanded Polystyrene）ともいいます。また、クール宅配便(たくはいびん)で運(はこ)ばれてくる冷蔵(れいぞう)、冷凍(れいとう)のお肉やお魚の鮮度(せんど)を守(まも)る保冷箱(ほれいばこ)としてもなくてはならない材料(ざいりょう)です。EPSは発泡剤(ざい)を含(ふく)ませたビーズ状(じょう)のポリスチレンを蒸気(じょうき)で温(あたた)めて膨らませてから金型(かながた)に入れ、もう一度(いちど)蒸気(じょうき)で温めて金型の形になるように膨らませて作(つく)ります。発泡したポリスチレンはビーズの50倍(ばい)の体積(たいせき)に膨らみ、98%が空気、ポリスチレンはたった2%です。ほとんど空気からできているので、軽(かる)いという特長(とくちょう)があり、資源(しげん)の節約(せつやく)にもつながります。また断熱性(だんねつせい)、耐水性(たいすいせい)（水(みず)に濡(ぬ)れても浸(し)みにくい）、耐衝撃性(たいしょうげきせい)（衝撃に強い性質(せいしつ)）という特長(とくちょう)があります。保冷箱、家電(かでん)製品の緩衝材のほか、ビーズクッションの中身(なかみ)、外の寒気(かんき)や暖気(だんき)からお家の中を守る建材(けんざい)としても使われています。

お刺身(さしみ)やお肉(にく)の食品(しょくひん)トレーもポリスチレンを発泡させたものですが、作り方がEPSとは違(ちが)います。食品トレーは発泡ポリスチレンシート（PSP=Polystyrene Paper）という材料(ざいりょう)から作ります。PSPは発泡剤(はっぽうざい)を混(ま)ぜたポリスチレンを押出機(おしだしき)とよばれる機械のなかで温めながらとかし、押出機の先から出てきたシートを引き伸ばすと同時(どうじ)に発泡させて作ります。発泡したPSPは元(もと)の原料(げんりょう)であるポリスチレンの約(やく)10倍(ばい)の体積(たいせき)になります。お刺身やお肉を乗せる食品のトレーはほとんど空気からできているのです。PSPは加工(かこう)がしやすく、納豆(なっとう)やカップ麺(めん)の容器(ようき)に使われているので、普段(ふだん)の生活でよく見かけます。

ポリスチレンには熱(ねつ)を加(くわ)えると縮むという性質(せいしつ)があります。この性質を利用してPETボトルなどの容器(ようき)のラベルとして広く使われています。「縮む」を英語で言うとシュリンクなので、シュリンクフィルムと呼(よ)ばれます。シュリンクフィルムを使った包装(ほうそう)は容器全体(ぜんたい)を覆(おお)うことができるため、商品(しょうひん)を保護(ほご)したり、異物(いぶつ)が入(はい)り込(こ)んだりすることを防(ふせ)ぐ効果(こうか)もあります。商品のシュリンクフィルムが破(やぶ)れていなければ、開封(かいふう)されていないと確(たし)かめることもできます。さらにカラフルな印刷(いんさつ)もできるため、飲み物のラベルや調味料(ちょうみりょう)のキャップ包装(ほうそう)などに利用されます。

参考動画：PETボトルのラベルはどうやって貼(は)りつけている？

最後(さいご)に押出発泡ポリスチレン（XPS=Extruded Polystyrene）を紹介(しょうかい)します。押出発泡とは、ポリスチレンと難燃化剤(なんねんかざい)（火で燃(も)えてしまうことを防(ふせ)ぐ薬品(やくひん)）を押出機内(おしだしきない)で温(あたた)めながら溶(と)かして混(ま)ぜ合(あ)わせ、さらに発泡剤を加え、連続的(れんぞくてき)に押し出すときに、発泡させながらつくる方法(ほうほう)です。XPSを使うと断熱性(だんねつせい)に加(くわ)えて、室内(しつない)と室外(しつがい)の空気が移動(いどう)するのを防ぐことが簡単(かんたん)にでき、屋根(やね)や住宅(じゅうたく)の外壁(がいへき)などに使われ、建物全体(たてものぜんたい)の断熱性能(せいのう)を向上(こうじょう)させます。また畳(たたみ)の芯材(しんざい)として利用されています。保湿性(ほしつせい)（湿度(しつど)を一定(いってい)に保(たも)つ）、防湿性(ぼうしつせい)（不要(ふよう)な湿気(しっけ)を防ぐ）があり、ダニの発生(はっせい)も防ぐ畳床(たたみどこ)として広く使われています。